「おいしゅうございました」の正体とは?―古典から学ぶ日本語のかたち

目次
1. 古典から学ぶ日本語のかたち
2. 音便とは
3. 〜き(連体形)
4. 〜う/〜しゅう(連用形)
5. まとめ
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7. コメント
Q: この前、「おいしゅうございました」という表現を聞きました。
調べてみたら、他にも「うつくしゅう」などがあるそうですが、詳しく教えてください。
A: 日本語は時代とともに少しずつ形を変えてきました。そのため、もとの姿をたどると今とは違う言い方に出会うことも多いのです。
たとえば「美しい」は、古語では「美しう(美しゅう)」や「美しき」と表されていました。今回は、これらの違いについて、歴史的な文法を交えながらわかりやすく解説していきます。
音便とは
古典文法には「音便」という音の変化があります。
かんたんに言えば「そのままでは発音しにくい音を、言いやすい形に変える」ことです。
例えば「美しき」は イの母音で終わるのでイ音便、一方「美しう(美しゅう)」は 語尾がウで終わるのでウ音便 が使われています。
美しい → 美しう(美しゅう)
[例] 花、美しう咲きたり。
⇒ 現代語訳:花が美しく咲いている。
おいしい → おいしう(おいしゅう)
[例] この料理、おいしうございます。
⇒ 現代語訳:この料理はおいしいです。
麗しい → 麗しう(うるわしゅう)
[例] ご機嫌麗しゅうお過ごしでございますか。
⇒ 現代語訳:お元気でお過ごしですか。
このように「〜い」で終わる形容詞は、古語では「〜う」となり(ウ音便)、現代語の「〜く」にあたります。
〜き(連体形)
例えば、「美しき」は、現代語の「美しい」にあたります。古典文法では、形容詞の語尾「-い」が連体形になると「-き」に変わり、名詞を直接修飾していました。
[例] 美しき世界
⇒ 現代語訳:美しい世界
[例] 若き人の志は、高くあるべし。
⇒現代語訳:若者の志は、高くあるべきだ。
[例] 高き山に雲かかれり。
⇒ 現代語訳:高い山に雲がかかっている。
この「イ音便」で表される言い方は、古典だけでなく、現代でも歌詞や詩、文学的な文章で使われることがあります。日常会話ではあまり使いませんが、情緒を込めたいときに選ばれる表現です。
[例]
愛しき日々の記憶が、まだ心に残っている。
The memories of those beloved days still remain in my heart.
少年たちは高き目標を抱いて、日々がんばっている。
The boys hold high goals and work hard every day.
苦しき日々も振り返れば輝きに変わるものだ。
Even the painful days turn into something shining when you look back on them.
〜う/〜しゅう(連用形)
「美しう(美しゅう)」は、現代語の「美しく」にあたる形で、副詞として使われます。
主に動詞や「ございます」と結びついて、「美しう咲く」「美しゅうございます」のように用いられました。
もともとは古典文法の形で「美しう」と書かれていましたが、発音の変化を反映した現代仮名遣いによって「美しゅう」と表記されるようになったのです。
[現代仮名遣いのルール]
い形容詞の語尾「-い」が、連用形になると「-う」になり、さらに発音上「しゅう」となることがあります。特に「~しい」で終わる形容詞に多く見られます。
うつくしい → うつくしう → うつくしゅう
あやしい → あやしう → あやしゅう
愛しい → 愛しう → 愛しゅう
くるしい → くるしう → くるしゅう
よい → よろしう → よろしゅう(※「良い」は特別な変化をします)
[例] 花、うつくしう咲きたり。
⇒現代語訳:花が美しく咲いている。
[例] 時もよろしうて、花盛りなり。
⇒現代語訳:時期もよく、花が盛りである。
[現代仮名遣いとは]
現代の音韻に基づいて単語を表記する方法で、1946年に内閣が告示しました。
当時の日本語には「話し言葉」と「書き言葉」に大きな違いがあり、たとえば「ゐ・ゑ」といった文字や、「てふてふ」と書いて「ちょうちょ」と読むなどの乖離がありました。その差を埋め、現代の発音に即した形で統一したのが「現代仮名遣い」です。
まとめ
- 古典の形容詞には、「〜き」「〜う(〜しゅう)」といった形があり、現代の「〜い」「〜く」にあたる。これは発音をしやすくするための音便による変化。
- 古典の形容詞は、現代語とは異なる形をとりながらも、役割そのものは今と同じように「名詞を修飾する」「動詞や述語にかかる」といった働きをしていた。
[〜き(連体形)]
- 現代語の「〜い」に相当し、名詞を直接修飾する。
- 例:「高き山」=「高い山」、「若き人」=「若い人」
[〜う/〜しゅう(連用形)]
- 現代語の「〜く」に相当し、副詞的に使われる。
- 例:「花うつくしう咲く」=「花が美しく咲く」、「時もよろしゅうて」=「時期もよく」
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