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N1なのに話せない問題


目次

1. N1なのに話せない問題
2. 問題1:JLPTには、発話のテストがない

3. 問題2:漢字圏学習者に有利な試験であることも無視できない
4. 「日本語がわかる」と「日本語で働ける」は違う
5. 見るべきなのは、級ではなく「何ができるか」
6. 関連記事

N1なのに話せない問題

日本語教育や外国人材支援の現場にいると、JLPTの存在感はとても大きいですよね。
特にN2やN1は、「日本語ができる人」と見なされるための大きな証明書になっています。

世界中で同じ基準で実施されている大規模な日本語試験ですし、語彙・文法・読解・聴解を一定の形で測れることには意味があります。
合格するために努力したことも、決して軽く見るべきではありません。

ただ、私はJLPTの級がそのまま「日本語能力そのもの」として扱われべきではないとずっと思っています。

特に就労支援の現場にいると、この違和感はかなり具体的なものになります。

履歴書にはN1、N2と書いてある。
でも、面接練習をしてみると、発話が非常に弱い。

自己紹介のようなシンプルな文章ですら、上手に組み立てられない。
前職で何をしていたのか、どんなスキルがあるのか、どんな働き方をしたいのかを、日本語で伝えられない。

こういうケースは、珍しくありません。

正直に言うと、N1を持っていても、実務の日本語になるとまったく話にならなず、こちらが頭を抱えることも多々あります。

問題は、JLPTの級が過大評価されていることにあると私は思っています。

私が特に問題だと思っているのは、大きく2つです。
ひとつは、JLPTには発話のテストがないこと。
もうひとつは、漢字圏学習者に有利な試験であることです。

問題1:JLPTには、発話のテストがない

JLPTで測られるのは、言語知識、読解、聴解です。

語彙や文法を知っているか。
文章を読んで理解できるか。
音声を聞いて理解できるか。

そういった力を見る試験です。

でも、話す力は測られません。
書く力も、直接は測られません。

つまりJLPTは、

読める。
聞ける。
選べる。

という力を測る試験です。

しかし、日本語を使うときに必要なのは、当然それだけではありません。
実際の生活の中では、正しい選択肢を選べることよりも、その場で言葉を発せることが求められます。

それなのにJLPTでは、その力を測りません。

だから、N1を持っていても話せない人がいる。
N2を持っていても、文章を組み立てられない。
読解は強くても、会話になると固まってしまう人がいる。

これは大きな問題だと思います。

問題2:漢字圏学習者に有利な試験であることも無視できない

もうひとつ、JLPTには構造的な偏りがあると思っています。
それは、漢字です。

日本語において漢字は重要です。
だから、JLPTで漢字や語彙の知識を問うこと自体は自然です。

ただし、漢字をすでに知っている学習者にとって、JLPTはかなり有利な面があります。
たとえば中国語を母語とする学習者は、日本語の漢字の読み方や使い方を新しく覚える必要はあります。
日本語と中国語で意味がずれる語もありますし、読み方はまったく違います。

それでも、漢字という文字体系そのものへの抵抗は、非漢字圏の学習者とは大きく違います。
文章全体の意味や、文法がわからなくても、漢字圏の学習者は語彙から全体の意味を推測しやすいわけです。

一方で、非漢字圏の学習者にとっては、漢字そのものが大きな壁になります。

これは、中国語母語話者が努力していないという話ではありませんし、漢字圏の学習者が有利であることを責めたいわけでもありません。

ただ、漢字知識の有無によって学習負担が大きく変わることは、教育設計や評価の中で考慮されるべきだと思います。

「日本語がわかる」と「日本語で働ける」は違う

実際、就労支援の現場で必要になる日本語力は、語彙や文法の知識だけではありません。

面接で自分を説明する力。
わからないことを確認する力。
ミスを報告する力。
相手の意図をくみ取って返す力。
メールで失礼のない文章を書く力。
状況に応じて言い換える力。
自分の希望や困りごとを伝える力。

これは、マークシートで高得点を取る力とは全く別物です。

もちろん、JLPTの勉強が無駄だとは思いません。
語彙も文法も読解力も、働くうえで必要です。

でも、それだけでは足りません。

「読めること」と「話せること」は違います。
「わかること」と「使えること」も違います。
「敬語の問題が解けること」と「実際のメールで自然に書けること」も違います。

ここを混同してしまうと、学習者本人も、採用する企業側も判断を誤ってしまいます。

見るべきなのは、級ではなく「何ができるか」

就労支援の現場で本当に見なければいけないのは、級ではなく、実務で何ができるかです。

日本語能力は、マークシートだけでは測れません。

読めること。
聞けること。
話せること。
書けること。
相手に合わせてやりとりできること。

これらは、すべて別の力です。

CEFR、つまりヨーロッパ言語共通参照枠でも、言語能力は「読む・聞く」だけでなく、「話す・書く・やりとりする」といった活動として捉えられています。

「N1だから大丈夫」
「N2だから採用できる」
と判断するのではなく、話す・書く・やりとりする力を別に見る必要があります。

JLPTは便利な指標です。
でも、便利な指標ほど、雑に使われやすい。

N1やN2は、努力の証明にはなります。
けれど、それだけで「日本語で働ける力」を保証するものではありません。

本当に見るべきなのは、級ではなく、その人が日本語で何をできるのか。

私は、JLPTを否定したいわけではありません。
ただ、JLPTだけで日本語能力を語ることには、そろそろ限界があると思っています。

N1なのに話せない。

その問題を、本人の努力不足だけで片づけるのではなく、日本語教育の業界全体でもう少し丁寧に見ていく必要があるのではないでしょうか。

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