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バイリンガル育児の陰で起きていること


目次

1. バイリンガル育児の陰で起きていること
2. セミリンガルって何?

3. 私がこれまで見てきた、いくつかのパターン
4. もうひとつの見過ごせないケース
5. 母語が育っていることの大きさ
6. 「早く英語を」が、必ずしも正解ではない
7. 日本語教師として感じること
8. かわいいで終わらせないために
9. 関連記事

バイリンガル育児の陰で起きていること

こんにちは。Enuncia代表のハミルトン葉奈です。
 

「I wanna 遊ぶ!」

先日、友人宅におじゃましたとき、友人の子供から飛び出た言葉です。
思わず笑ってしまいました。とてもかわいかったからです。

でも、笑いながらも少し考えさせられました。
これは微笑ましい話として受け取っていいのか。それとも、少し立ち止まって考えた方がいいことなのか。

子どもが二つの言語に触れながら育つ姿は、一見するととても豊かに見えます。
実際、そこには大きな可能性があります。
けれど同時に、その裏側で見落とされがちな問題もあります。

今日は、そのことについて書いてみたいと思います。

セミリンガルって何?

セミリンガルという言葉をご存知でしょうか。

簡単に言えば、複数の言語環境で育ったにもかかわらず、どの言語も年齢相応の水準まで十分に育っていない状態を指します。
日常会話はできる。でも、抽象的なことを考えたり、感情を細かく表現したり、自分の考えを筋道立てて言葉にしたりするための「深い言語」が育ちきっていない。そういう状態です。

以前は、在日外国人の子どもや帰国子女の問題として語られることが多かった印象があります。
けれど最近は、少し様子が変わってきているように感じます。

日本人家庭でも、幼いうちからインターナショナルスクールに通わせるケースが増えていますし、インターナショナルバカロレアへの関心も高まっています。
英語教育を早く始めたいという親御さんの気持ちも、今ではごく自然なものになりました。

その流れ自体が悪いとは思いません。
ただ、その一方で、日本でもセミリンガルの問題が静かに広がっているのではないか、と感じることが増えました。

私がこれまで見てきた、いくつかのパターン

日本語教師として、またハーフの友人を多く持つ者として、私はこれまでさまざまなケースを見てきました。

インターナショナルスクールに通って、日本語が苦手になった人。
帰国子女で、日本語も英語もどちらもできるけれど、どちらも80点のまま大人になった人。
日本で育ったハーフで、気づけば日本語しか話せなくなっていた人。

その一方で、日本で育ちながら日本語も英語も高いレベルで身につけた人もいますし、海外で育って両方ほぼネイティブレベルという人もいます。

つまり、複数言語環境で育つこと自体が問題なのではありません。
同じように見える環境でも、うまくいく場合とうまくいかない場合がある。
私はその差がずっと気になっています。

もうひとつの見過ごせないケース

日本で暮らす外国人の子どもたちです。
両親が日本語をほとんど話せず、学校の授業についていけない。
家では母国語を使っていても、体系的な母語教育を受けているわけではないので、母語も年齢相応に育ちにくい。
結果として、日本語も母語も、どちらも十分に伸びないまま学校生活を送っている子どもたちが、実際に増えています。

これは、ハーフや帰国子女のケースとはまた少し性質が違います。
前者には、少なくとも親の教育方針や選択が背景にあることが多い。
けれどこちらは、本人も親も望んでいないのに、環境によってそうした状況に置かれている場合がある。

つまり、言語教育の空白が、子どもの言語発達そのものに影響してしまっている。
私はこの問題の方が、ある意味ではさらに深刻だと感じています。

母語が育っていることの大きさ

ここで少し、自分のことを書きます。

私の母語は日本語です。

父はアイルランド人で、幼いころから英語には触れていました。
ただ、インターナショナルスクールではなく日本の学校に通っていましたから、英語で教育を受けていたわけではありません。
本格的に英語環境に入ったのは、高校2年生でアイルランドに渡ってからでした。

それでも、英語はすごく伸びました。
もちろん、いろいろな要素が関係していると思います。けれど今振り返ると、やはり大きかったのは、日本語という母語がしっかりしていたことだったのではないかと思います。

何かを理解する力。
考えを組み立てる力。
言葉の意味をつかむ力。
そうした「言語の土台」が日本語である程度できていたからこそ、英語もその上に乗っていったのではないか、と感じるのです。

言語習得の研究によると、母語の基礎は一般的に5〜6歳頃までに確立し、論理的思考や学習の基盤となる複雑な言語能力は10歳頃までに完成すると言われています。
この土台があってはじめて、第二言語も深く根を張ることができる。
逆に言えば、母語が確立する前にあれこれ詰め込もうとすると、どちらも中途半端になるリスクがあるということです。

子どもの言語発達についてはさまざまな考え方がありますが、少なくとも私は自分自身の経験から、第一言語の土台がしっかりしていることは、その後の学習全体に大きく関わると実感しています。
母語が安定している人は、第二言語も伸びやすい。
逆に、どちらの言語でも土台が揺らいでいると、表面的には話せても、深い理解や表現のところで伸び悩みやすいように思います。

「早く英語を」が、必ずしも正解ではない

わが子に英語を早く身につけさせたいという気持ちは、とてもよくわかります。

これからの時代、英語ができたほうが絶対にいい。
それは確かです。実際、英語は子どもの将来の選択肢を広げる大きな力になります。

でも、「早ければ早いほどいい」という考え方は、必ずしもそのまま正しいとは限らないと思っています。

私の周りを見ていても、英語と日本語がおかしな混ざり方をしているケースは少なくありません。
どちらか一方がしっかり育っていればよかったものが、中途半端に両方が入っていることで、どちらの言語でも深く考えたり、十分に表現したりするのが難しくなっているように見えることがあります。

「I wanna 遊ぶ!」は、幼い子どもの発話としてはとてもかわいい。
でも、大人になっても続いているとしたら、それは別の話になってきます。

大切なのは、早く二言語に触れさせることそのものではなく、どちらかの言語、特に生活と思考の中心になる言語を、きちんと育てることなのではないでしょうか。
私は、その土台があってこそ、第二言語も結果的に深く伸びていくのだと思っています。

日本語教師として感じること

これは、日本語教師として私が強く感じていることでもあります。

学習者が日本語を学ぶとき、その人がすでに持っている母語の力は、日本語習得の大きな土台になります。
母語でしっかり考えられる人は、日本語の理解も早い。
文法の整理もできるし、抽象的な内容にもついてこられる。
日本語で言えないことがあっても、頭の中にはすでに概念があるからです。

逆に、母語そのものが揺らいでいると、日本語も表面的なレベルで止まりやすい。
単語は知っている、会話もなんとなくできる。
けれど、自分の考えを深く言葉にする段階で苦しくなる。
そういう場面を何度も見てきました。

だから私は、「日本語を教える」ということは、単に語彙や文法を教えることではないと思っています。
その人が持っている言語全体の力を、どう支えるか。
どの言語を土台にして、どう日本語を積み上げていくか。
そういう視点が必要なのだと、最近あらためて感じています。

かわいいで終わらせないために

「I wanna 遊ぶ!」と言っていた子供が、10年後、どちらの言語でも深く考え、豊かに表現できる人になっていてほしい。
私は心からそう思います。

そのためには、大人が「バイリンガルっぽくていい」で終わらせないことも大切なのかもしれません。
二つの言語に触れることは、たしかに豊かなことです。
けれど、ただ触れれば自然に育つほど、言語は単純なものではありません。

どの言語で考えるのか。
どの言語で感情を育てるのか。
どの言語で、世界を理解していくのか。

そうした土台づくりを、子ども任せにしないこと。
それが、これからますます大切になっていくように思います。

セミリンガルという問題は、派手ではありません。
目に見えてすぐ困るわけでもないことが多い。だからこそ、静かに進んでいきます。

でも、言葉はその人の思考そのものです。
だからこの問題は、単なる語学の話ではなく、その子がどんなふうに世界を理解し、どんなふうに自分を表現して生きていけるか、という話でもあるのだと思います。

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