水を沸かす?お湯を沸かす?助詞「を」の使い方

目次
1. 水を沸かす?お湯を沸かす?
2. 基本的な「を」の役割
3. 産出の対象の「を」①
4. 産出の対象の「を」②
5. 比べてみよう
6. まとめ
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8. コメント
Q: 「沸かす=boil」なら、「水を沸かす」が正しいように思います。
日本語では「お湯を沸かす」というのはなぜですか?
A:たしかに英語で考えると boil water となり、「水を沸かす」と訳すのが自然に思えますね。
しかし日本語では、「を」の役割を正しく理解することがとても重要です。
「水を沸かす」は動作の対象としての「水」を表し、「お湯を沸かす」は“沸かすことで生まれるもの”=産出される対象を「を」で示しているのです。
こうした違いを知ることで、日本語の意味もより明確に理解できるようになります。
基本的な「を」の役割
助詞「を」には、主に次の3つの使い方があります。
● 対象(動作の対象を示す)
動詞が何に対して行われるのかを示します。
[例]
父は新聞を読んでいます。
My father is reading a newspaper.
上司に頼まれて仕事を引き受けました。
I was asked by my boss and accepted the task.
● 起点(出発点・離れる場所を示す)
どこから動作が始まるのか、離れるのかを示します。
[例]
午後6時頃、会社を出ました。
I left the office around 6 p.m.
日本を離れて10年になります。
It has been 10 years since I left Japan.
● 経過域(移動中に通る場所を示す)
動作が空間的にどこを通るかを示します。
[例]
大きい車が道を走っています。
A big car is driving on the road.
橋をわたって、むこうに行きましょう。
Let’s cross the bridge and go over there.

さらに詳しく知りたい方はこちら
産出の対象の「を」①
「水を沸かす」という表現は、「ごはんを食べる」と同じように、「を」が動作の対象を示している例です。
[例]
水を沸かします。
I boil water.
⇒ この場合、「水」が「沸かす」という動作の対象になります。
では、「お湯を沸かす」の「を」はどうでしょうか?
ここでの「を」は、産出、つまり「その動作によって生み出されるもの」を表しています。
[例]
コーヒーを飲みたいから、お湯を沸かしました。
I boiled water because I wanted to drink coffee.
⇒ 「コーヒー」は「飲む」という動作の対象ですが、「お湯」は「沸かす」という動作によって作られたものを示しています。
このように、「を」は単に“対象”を示すだけでなく、動作によって生まれるもの(=産出)にも使われることがあります。
産出の対象の「を」②
実は、「沸かす」以外にも、動作によって何かを生み出す場合に使われる「を」があります。
これは、産出される対象を示す「を」です。
たとえば、次のような動詞と一緒に使われます:
作る・掘る・生み出す・生産する・(作品・文章・絵を)かく・(作品を)送り出す・創造する・発明する など
[例]
日本料理を作ります。
I make Japanese food.
彼はすばらしいアイデアを生み出しました。
He came up with a great idea.
その作家は多くの作品を世に送り出しました。
The writer released many works into the world.
冬になると動物たちは穴を掘って、そこで冬眠します。
In winter, animals dig holes and hibernate in them.
これらの文に共通しているのは、動作によって新しく作り出されるものが「を」で示されているという点です。
つまり、「を」は動作によって生まれるもの=産出物にも使われるのです。
比べてみよう
次のような場合、どちらの表現がふさわしいでしょうか?
[例①]
この水を沸かしてくれる?
Can you boil this water?
このお湯を沸かしてくれる?
Can you boil this hot water?
[例②]
水を沸かしてから、だしを入れてください。
Boil the water first, then add the soup stock.
お湯を沸かしてから、だしを入れてください。
Boil the hot water first, then add the soup stock.
①のケースでは、「この水を沸かしてくれる?」が自然です。
ここでは話し手が目の前の「水」という具体的な物を指しており、その水を沸かしてほしいという意味になります。
一方、②の文では「お湯を沸かしてから〜」が適切です。
この場合、話し手が求めているのは「水を沸かす」という行為ではなく、お湯という結果(産出物)なので、「お湯を沸かす」がふさわしい表現となります。
このように、「水を沸かす」と「お湯を沸かす」は、何を伝えたいか(対象か産出物か)によって使い
分けが必要です。
まとめ
- 基本的な「を」の役割は以下の3つ
① 対象(動作の対象を示す)
② 起点(出発や離れる場所を示す)
③ 経過域(移動する際に通過する場所を示す) - 「を」には産出の対象を表す役割もあり、「お湯を沸かす」の「を」は産出を表している。
- 「沸かす」以外の動詞に「作る・生み出す・発明する」などがある。